幾何学的なフォルムと明快な色彩で描かれた世界観は、現在も多くのファンを魅了し続けています。
今回は2階企画展示室で開催中の「菅井汲-疾走するイメージ-」展をご紹介いたします。
《塩造る家々》 1949年 キャンバスに油彩
渡仏前の1940年代後半、中村貞似に師事し日本画へ関心を向けていた菅井汲。
この《塩造る家々》は、日本美術院再興第34回展で入選した初期の傑作です。
菅井汲がこの頃、吉原治良と出会い指導を受けていることは、作風の変遷を知る上でも
興味深い事柄といえるかもしれません。
《RAFAIL》 1960年 キャンバスに油彩
その後1952年に単身渡仏した菅井汲は、1955年に時代の寵児・藤田嗣治と二人展を開催。
日本古来の神話からインスパイアされた人や獣、鬼など、日本的な要素を含んだプリミティブで素朴な画風はパリで好評を得ることとなり、エコール・ド・パリの一員としてパリ画壇に新たな風を吹き込みました。
《朝のオートルート》1963年 キャンバスに油彩
こちらは作品の傾向ががらりと変わり、画面には均質で記号化された図像が現れ始めます。
愛車の〈ポルシェ〉に乗り、ドイツのアウトバーンを猛スピードで疾走した体験の中から生まれた鋭敏な感覚意識が創作に変化を与えたのでしょうか。
以後、道路や標識を簡素化した幾何学的図像を多く描くようになっていきます。
《Untitled》アクリルにシルクスクリーン
1966年頃からアクリルを素材として制作されたマルチプル。絵柄がアクリルの両面にシルクスクリーンで刷られたこの作品は、アクリルの厚みから生じる微妙な視覚のずれが楽しめ遊び心に溢れています。
《SUGAI》 1980年 キャンバスにアクリル
80年代に入り、菅井汲は自身のイニシャル“S”がモチーフの作品を多く発表。
同じモチーフを繰り返し描き続けることに芸術的な意義を見出していきました。
《SUGAI》は、標識のような円形のキャンバスに記号化された“SUGAI”の文字が配され、
モノトーンと赤色の組み合わせが、無駄のないすっきりとした画面を構成しています。
《OBJET SIGNAL》 1996年 木に彩色
「鑑賞されるだけでなく生活の背景として見られたい」という作家の思いが伝わってくるような限定100部の立体。 “S”がかつてのオートルートシリーズを髣髴とさせる1996年の作品です。
閉鎖的な日本を飛び出し、遠い異国の地で自由闊達にオリジナリティを追求していった
菅井汲。独創的な作品の数々はいかがでしたでしょうか。
展覧会の会期は23日までと残りわずかになってまいりました。
みなさまのご来館を心よりお待ち申し上げております。
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